シンポジウム「人工妊娠中絶を取り巻く現状」レポート その1

2013/6/12  5:25 | 投稿者: 江夏 亜希子

 6月9日(日)、性と健康を考える女性専門家の会が主催する年1回の総会シンポジウム「人工妊娠中絶を取り巻く現状」が開催されました。
 もともとこの会は、1997年(私が医者になって2年目のピヨピヨの時ですね)に、女性医療に関わる先輩たちが、低用量ピルの認可を求めて立ち上げた会。(そして1999年に日本でも低用量ピルが使えるようになったのは、ご存じのとおり)
 私は2004年に東京に出てきてから参加させていただき、昨年からなぜか(?)副会長の大役を仰せつかっております。
 今年のシンポジウムは、ついにここに切り込みました。
古くて新しい問題「人工妊娠中絶」。
いや〜、ピル解禁の遅れもすごかったけど、ここにもありました、日本のガラパゴス化。

今回のプログラムはこの通り
1. 人工妊娠中絶をめぐる議論の検討  
    明治学院大学 社会学部教授  柘植あづみ先生
2.女性の人権と選択−中絶技術の観点から
    金沢大学 非常勤講師 塚原久美先生
3.避妊・人工妊娠中絶の最新情報
  ・日本のOCについて
     対馬ルリ子女性ライフクリニック銀座 対馬ルリ子先生
  ・経口妊娠中絶薬の動向  
     米国アクアイナス大学 松本佳代子先生

改めて気づいたことたくさんで、長いレポートになってしまいます。
何回かに分けて書かせてもらいますね。

1. 人工妊娠中絶をめぐる議論の検討
ここでは、まず、人工妊娠中絶の法律的・社会学的な背景についての話がありました。
人工妊娠中絶(=堕胎)は、日本でも法律で禁じられています(堕胎罪)。
ただし、母体保護法で定められた一定の条件を満たした場合のみ、認められることになっています。
古来から、国家は人口の量・質を管理するために生殖に介入してきました。
終戦後の近代日本では、まず1948年に「優性保護法」が制定されました。
その名の通り、「優性上の見地から、不良な子孫の出生防止と母性の生命・健康の保護を目的とする法律です。
「優性」というのがまさに「質の管理」ですよね。
さらに、戦前の「産めよ増やせよ政策」から、終戦後のベビーブームで爆発的に子供が増えたことを受けての「量の管理」として、「経済的条項」が1950年に追加されています。
この優性保護法の「気持ち悪さ」は、全文を読めば感じていただけると思いますが、第1章第1条が「この法律は、優生上の見地から不良な子孫の出生を防止するとともに、母性の生命健康を保護することを目的とする。」・・・「不良な子孫」って。
で、実際に1966年から兵庫県では「不幸な子どもが生まれない対策室」っていうのができたり、1964年の朝日新聞がからだの不自由な子どもや親のない子どもたちのための団体の大会を報じた記事の見出しが「不幸な子どもらの危機を訴える」ですって。
こんなのが当然だった時代に生まれたのか?とぞっとしました。
(まあ、だから今でも「優性思想」が抜けない方々がたくさん残っているのも、納得できるというか。非常に残念ですけど。)

そんな長い時代を経て、「優生保護法」が「母体保護法」に改正されたのは、1996(平成8)年。
ちょうど私が医師になった年です。
母体保護法についてはこちら
この第1章第1条は、
この法律は不妊手術および人工妊娠中絶に関する事項を定めることにより、母性の生命健康を保護することを目的とする。
とされ、「優性思想」が排除されたのです。
ですから、最近話題になっている「新型出生前診断」で、「胎児の異常がわかったら人工妊娠中絶を選択する人が増えるのでは?という懸念がありますが、胎児の異常を理由にした人工妊娠中絶は認められない、ということになっているのです。
しかし、実際には「妊娠の継続または分娩が身体的又は経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれのあるもの」という事由に当てはめて中絶を選択することも多くみられるんですよね・・・。

では、アメリカでの人工妊娠中絶はどのような位置づけになっているのでしょうか?
恥ずかしながら、「宗教上、中絶が認められないんじゃない?」くらいの漠然とした知識しかありませんでしたが、国家としては1973年のRoe vs.Wade裁判に対する連邦最高裁判所の判決により、すべての州において、妊娠初期の人工妊娠中絶と妊娠中期も条件付きで合法化されているそうです。
そもそも、妊娠初期の胎児は、母体外での生存可能性が低いので、母体に妊娠継続の意思がなければ生存できない=女性のプライバシー権が胎児の権利に勝るという考え方らしいです。
よって、日本のように「中絶の理由」は問われず、「妊娠期間(週数)によってのみ制限される、というのです。知らなかった〜。
ちなみに、柘植先生によると、iPS細胞が作られる前に万能細胞として注目されていたES細胞は、受精卵が実験材料となるため、日本では「受精卵の権利」が問題になる一方、アメリカではそのあたりをほとんど気にしていないというのが象徴的だったとか。
いや〜、お国変われば、ですね。日本で広く行われている「水子供養」なんて、そもそもそんな概念がないんですよね。
どっちがいいとか、悪いとかではない問題ですが、
私は、今、生きている人間が生きづらい、苦しい思いをしないこと、が最優先なんじゃないか?と考えます。
それは、日本人の伝統を否定するわけではなく。
だから私は、患者さんが人工妊娠中絶を選択される際、いつも話をしています。
「赤ちゃんは、お母さんが幸せであることがきっと一番うれしいのだから、
 お母さんの選択をきっと子供は恨んだりしないと思いますよ。
 お母さんが幸せになるための選択なのですから。
 もし、今回のことをつらいと思うのであれば、
 もう2度と同じことを繰り返さようにしなきゃいけないですよね。」

ということで、柘植先生の講義では、人工妊娠中絶=「悪」と条件反射的に語れるものではないことが、まず確認されました。   

(続きます・・・が、いつ書く、とは明言できません。気長にお待ちください)
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