はじめまして、クラウン歩龍(ぽろん)ともうします。ずいぶん前にどらねこやんにこのブログで紹介していただきました。今回は自分で書き込みしちゃいます。
先週末、日本でがん治療の先端をいっている某がんセンターにお邪魔してきました。その日は病院で開催する納涼祭。普段はそこで働くクラウンPさん(ちなみにクラウンとして働いている訳ではありません。あしからず)に招かれての今回の訪問になりました。実は私ことぽろんは、病院訪問は初めての経験です。そしてPさんにとっても職場での初めてのクラウニングとなりました。その日、5人のクラウン仲間での病院訪問の体験談を紹介させていただきます。
病院にクラウンが訪問する活動は数年前から各地のいろいろな団体がやっているようですが、まだまだ日本では確立されていない活動です。クラウンという存在自体もイベントのにぎやかしとしてのイメージが強いと思います。この日、電車を乗り継いで最寄りの駅についた4人はPさんに車で迎えに来てもらって訪問先の病院までやってきました。空が広く、緑に囲まれて高台に建つ大きな病院は一見ホテルのような環境のいい場所でした。控え室も用意していただき、衣装に着替えて、メイクを終えると、最初に頼まれた仕事はくす玉に仕込むバルーン作り。とはいえ、結ぶのとか縛るのとか大の苦手なクラウンぽろんは横から眺めているだけでした。バルーン作りに大活躍したのは、ハードな介護の仕事を普段はしながら、小児病棟などの訪問にも参加しているクラウンMです。行きの電車では仕事の愚痴なども飛び出したMですが、クラウンになるとキュートなキャラに大変身です。他には子どもの頃からピエロ大好きという天然キャラのクラウンH、そしてわがぽろんの歌の相棒であるクラウンSです。私以外は女性ばかりという構成ですが、クラウンに性別はありませんからね。
納涼祭は病院の吹き抜けのロビーの一角を会場に行われました。5人のクラウンはお花のバルーンなどを両手に抱えて会場へ乗り込みます。大勢のボランティアさんたちが盛り上げる会場はお祭りのような露店がいっぱいです。訪れるのは入院している方とその家族などです。とくにジャグリングなどの芸を持たない5人のクラウンはどうやって来ている人たちとコミュニケーションをとろうか迷いながら突進していきました。なんとなく不安から固まってしまいがちですが、ここは各自前進あるのみ!
病院の空気になれたPさんはスタッフや患者さんたちと自然にアプローチ。病院訪問経験があるMもボランティアの方たちに交わりながら自然と打ち解けて、Sもなんだか楽しそうに関わりを築いていっているように見えました。Hさんと私はなんだかどうしようかなぁ?と困惑気味…いきなり歌う雰囲気でもないので、まずは仕込んできた薄手ゴム手袋をバルーン代わりに膨らまして子どもたちとコンタクト、興味を持ってくれた子どもの顔をそれに描いてプレゼントしたりしました。時に泣かせてしまったり、怖がらせて追いかけたり、怒らせてしまったり…それぞれ反応を楽しみながらのクラウニング。
ところでこうやってクラウンをしている間も私ぽろんの中では葛藤があります。クラウンの笑顔(自分の作り笑いの顔)がどうもしっくりこない。作り笑いなんて、本当は子どもたちに見透かされているんじゃないかなぁという懸念。どうしてクラウンなんだろうという根本的な問題です(笑)
そんな中で私に興味を持ってくれた赤いTシャツを着た5歳ぐらいの男の子・ヒロくんとの出会いがありました。最初は怪訝そうに私を見ていたヒロくん。「その鼻は付けてるだけだろ!」と突っかかってきた。「え? 生まれた時からこの鼻だよ」というと「嘘つけ!」と真剣に見つめてくる。「顔も描いてるだけだろ!」「そんなことないよ」というと下から鋭く睨み上げてくる。お茶を濁して手袋バルーンを作ろうとして失敗、もう一度やり直そうとしたら「もう飽きた!」と行ってしまった。でもしばらくして戻ってきたから手袋バルーンに顔を描いて渡すと「ありがとう」と受け取ってくれた。隣にいた大きな男の子が私を怖がって逃げるので、ヒロくんと一緒に追いかけて遊んだ。みるみる彼の顔が友達に向けるあの笑顔になる。一緒に走って、一緒に隠れて、一緒に手袋バルーンをプレゼントする子どもを探した。ヒロくんは少し離れていてもお祭りの会場の中にいたので、他の子どもや家族連れと関わっている合間も時折顔を見合って確認して目で合図を交わしていた。
ターゲットの子どもが見当たらないと、会場や会場裏をぐるぐると歩き回り、ぽろんの頭にかぶった新調したシルクハット(手作りの偽物)の上の花形の風車がぐるぐると回っていた。自然と会場の人の目につく。それで気づいて「クラウンだ」と笑顔を向けてくれる大人たち、その声に振り向き手を振ってくれる子どもたち。不器用に作る手袋風船を作る合間もコミュニケーションに変えてみるのも手法だと気づいた。ものものしく風船に似顔絵?を描いて子どもにプレゼント。喜ぶ子どもと周りの大人。いらないという子どもの時は周りの大人たちが笑ってくれた。
背中に背負っていた四弦ギター。「せっかく持って来たんだから歌ってよ」と促してくれるPさん。なんとなく歌う雰囲気じゃないので逃げている相棒のS。無理矢理連れて来て一角で歌ったけど、会場が広すぎるためかギターの音はさっぱり響かない。じゃあ呼び込みでもと会場を出て上の階に歌いながらクラウン3人で移動したりしたけど人がいなくて断念。会場に戻ると露天をやっているボランティアの女性たちが「そのギター、本当に鳴るの?」と聞いてきたので「鳴りますよ」と答えると「何か歌ってよ」とリクエスト。ここでようやく聴衆を得て演奏開始。やはりギターの音は聞こえ辛かったけど、ま、周囲の人となんとなく一緒に歌って拍手ももらいました。練習不足の上、覚えている曲も3曲ぐらいしかなかったので、「何か歌ってよ」と言われるたびになんだか中途半端な歌を聴かせることになってしましました。
しばらくしてまた行き場を失ったので、会場とその周辺をぐるぐるあてもなく回っていると、祭会場から出てくるヒロくんの姿が目に入りました。「もう帰るの?」「ううん。おじいちゃんの部屋に行ってくるの」「そうなんだ。ぽろんも付いて行っていい?」すかさず思い切って訪ねると「いいよ」とあっさり承諾。二人で会場を離れて通路を進みました。通路を進む間、ヒロくんはふざけてギターの弦をかき鳴らして笑いました。途中の病棟前にいた警備員さんとは顔なじみっぽいヒロくんは「連れて来ちゃった」と笑顔を飛ばし「くっついてきました」とは私。「庭、見に行く?」と私に尋ねてきましたので「いくいく!」と答えると重いドアを全身を使って開けてくれて外の庭に案内してくれました。そこは素晴らしいバラ園で何百本という色とりどりのバラが咲いていました。「きれいだね。ヒロはバラ好き?」「ううん嫌い。鯉を見に行こ!」と道の先に案内してくれて庭にある小さな池に無数に泳ぐ小さな鯉たちを二人で眺めました。しばらくしておじいちゃんの部屋へ庭を進んでいきました。外は暑かったけど、風が強くて帽子の上の風車がものすごい勢いで回っていました。それを二人で大笑いしながらくねくねのバラの咲く下り坂を走って過ぎると、敷地の端にある静かな病棟に着きました。「おじいちゃんは足を怪我して入院してるんだよ」とヒロくんが説明してくれます。でも本当のところは違うことは分かっていました。そこはこの病院内にある緩和病棟だったのです。
病室の外にヒロくんの家族、お父さんとおばあちゃんがいました。ヒロくんが何も言わなくても、クラウンを彼が連れて来たことは了解した様子でした。「今ね、お客さんが来てるから、おじいちゃんの部屋には入れないのよ」と言ったおばあちゃんは「そうだ」と思いついて隣の病室の方に声をかけてくれました。玄関を入ると正面のスタッフルームにいた看護婦さんたちの「あ」と花咲くような笑顔が迎えてくれました。そしてお隣の部屋の患者さんの付き添いの女性は快く私たちを部屋に受け入れてくれ「こんな小さい坊やが連れて来てくれたの? 偉いわね。すごいわ。お父さん、ほらテレビに出ているようなピエロさんが来てくれたわよ」ペットの上には寝たきりで声さえ出せない患者さんが横になっていて、静かな温かい笑顔を送ってくれました。「何か歌ってよ」と催促したのはヒロくんでした。「え? ヒロくんが歌うんじゃないの?」「違うよ。歌えるんでしょ! 早く!」そして黙って耳を澄ませます。初老の女性も「何か歌ってください」と微笑んだ。何を歌おうか迷うほどレパートリーもないので、ヒロくんも知っている「大きな古時計」をそっと弾き始めました。歌が進むに連れて、寝たきりの患者さんの足がシーツの下で歌に合わせて動くのが分かりました。とても穏やかな時間がゆっくりと流れている気がした。歌詞が微妙なので、2番まで歌ってギターを弾き終えました。そしてお礼を言って部屋を後にしました。ヒロくんは玄関にいたお父さんにも聴かせようと「歌を歌ってよ」とせがんできたけれど「おじいちゃんのお客さんが帰った頃にもう一度出直そうよ」と説得して、元来たバラの小道を二人で駆け上がった。風で帽子が吹っ飛んだりしたけど、私の心はなんだか満ち足りていた。
お祭りの会場に戻った頃には、もう時間も終盤。来場者も減って、ボランティアさんたちと話したり、リクエストに応えて歌ったりしてから、Sさんに「これから彼のおじいちゃんの病室を訪問しよう」とヒロくんに目をやって耳打ちした。するとPさんが「じゃあ、皆で行こう」と提案。そしてさっきの通路をクラウン5人で移動した。庭に出ると遠回りなので、さっきの警備員さんに「いっぱい連れてきました」と一礼して屋内の通路を先に進みエレベーターで緩和病棟に降りた。「静かにね」というPさんの指示と、先頭で案内役を買っているヒロくんに従って、さっきの玄関前にでた。見つけたスタッフの顔に笑みがこぼれる。そしてヒロくんのおじいちゃんの部屋に一人ずつ入って行きました。ベッドに横になる男性と一人ずつ握手を交わしました。最後に入った私を見て、ヒロくんのおばあちゃんがお隣の部屋の方の様子を言葉とゼスチャーで教えてくれました。さっき私が去った後に涙を流して喜んでくれたと。ヒロくんのおじいちゃんと挨拶を交わして、5人のクラウンがベッドの周りを囲みました。すると先ほどの隣の部屋の女性もやってきて、看護婦さんも一人やってきました。ヒロくんがお父さんを呼びにいって、連れてきました。こうして狭い病室はお祭りのように人が集まりました。Pさんの合図でSさんと一緒に「涙そうそう」を歌いました。疲れるだろうから短めにとPさんの言葉もありましたが、2番まで歌いました。声を張り上げるのではなく、寄り添う様に、Sさんの歌声が病室を温かく包みました。彼女はベッドサイドにしゃがみ込み、語りかけるように歌います。ヒロくんもお父さんも静かに耳を澄ませていました。歌い終えるとさっき会場でふざけて遊んでいた別の子どもたちも入って来て、皆で笑いながら記念撮影で集合写真を撮りました。ベッドの上のおじいちゃんも自分もとばかりにベッドをジャッキアップしてきたのには驚きです。こうして笑いのうちにまた一人一人挨拶をして部屋を後にしました。
病室を出ると、看護スタッフの女性が「実は他の部屋に、お祭りに行きたかったけど行けなかった人がいるので、訪ねてもらえますか?」という相談。5人のクラウンは喜んで承知しました。こうして他に2つの病室を訪れて歌いました。老夫婦の部屋ではまた「大きな古時計」を。次の部屋では手拍子をして逆に元気をくれた女性の患者さん。病室を出てクラウンMの提案でバルーンを訪れた病室に届け、最後に病室の前でスタッフや家族、子どもたちと集合写真を撮りました。その誰もがお互いに出会えたことを喜び合いました。そしてヒロくんとの出会いから、偶然にもこんな素敵な時間に巡り会えたことを感謝します。
最近になってやっと気づいたことですが、実は私はクラウンというものがあまり好きではなかったという事実です。じゃあなんでクラウンをやってるの?ってことですが、まだその訳は自分でも分かりません。クラウンはサインです。今回のクラウン訪問。トラブルもいっぱいあった(内緒…笑)し、失敗や反省点もあるけれど、本当に来てよかったという体験でした。クラウンぽろんにとって「クラウンであること」は目的ではなく、手段だと思えました。今回の体験で、クラウンであったことでたくさんの笑顔に出会えたことは本当ですからね。
今回声をかけてくれたPさん、そして納涼祭を盛り上げたボランティアの方々、笑顔で受け入れてくれた病院スタッフの方々、忙しい中を一緒に参加してくれたクラウン仲間たち、本当にありがとうございました。最後に見上げた手作りな打ち上げ花火を眺めながら、夏の終わりの温かい思い出をかみしめました。

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