ロバさんは、岩がごろごろしている山道を歩いていました。ふと見ると、大きな岩の上に、誰かが座っていました。耳の長いロバ――ではなくて、ウサギでした。
ウサギは目を閉じて、なにか瞑想しているようでした。ロバさんは、邪魔をしないように、そーっと通り過ぎようとしました。すると、突然、
「聞こえる!」
と大きな声がしたので、ロバさんはびっくりしました。瞑想していたウサギが目を開けて、ロバさんをじっと見ています。ロバさんは、なにか言わなければいけないような気がして、
「こ、こんにちは……」
と、小さい声で言いました。
「聞こえる……今年もとうとうこのときがきたんだ」
とウサギはまた言いました。
「なにが聞こえるんですか?」
ロバさんには、風の音くらいしか聞こえませんでした。耳の長いウサギは、きっと自分よりも小さい音が聞こえるのだろう、と思いました。
ウサギは岩から飛び降りて、ロバさんの前にやってきました。
「きみにはあれが聞こえないのか?」
ウサギは険しい目になっていました。
「すみません、私には……なにも……」
「カメの音が聞こえるじゃないか!」
「カメの……音?」
「ついておいで! こっちだ」
ウサギはふいに駆け出しました。ロバさんは、どうしようかと思いましたが、ついておいでと言われてしまったので、ウサギのあとを追いかけました。
やがて、急に目の前の岩山がなくなりました。目の前に広がるのは、海岸です。砂浜がずっと続いています。その砂浜に、小さくて丸いものがたくさん落ちてくるのが見えました。パラパラと、雨が降るような音がしています。その丸いものはころころっと転がると、足を生やして歩き出しました。
「な、なんですかあれは……」
「カメだ!カメが降っているのだ! ここまでくれば、きみにも聞こえるだろう?」
「ええ……でも……」
ロバさんは、カメが空から降ってくるものだとは、思いもしませんでした。びっくりして立ち止まっていると、ウサギが、
「早く早く! ついておいで」
とせかすので、また走り出しました。
海岸に着くと、カメたちがウサギのまわりに集まってきました。ほかのカメより少し大きい、かなり歳をとったカメが、ウサギの前に立って言いました。
「1年ぶりだな、ウサギ仙人よ」
ウサギは答えました。
「今年もまた、この日がやってきたのだな。で、どのカメが私の相手なのだ?」
長老らしいカメは、うしろを向いて、
「前に出てきなさい、勇者よ」
と呼びました。一匹の若いカメが進み出て、にらむような目つきでウサギを見ました。
「ほう、きみが今年の相手か」
「今年は今までとはひと味違うぞ、ウサギ仙人よ。歴代の記録を破った俊足の勇者なのだ」
長老カメは得意げに言いました。
「それは楽しみだ。ではさっそくはじめよう」
なにがはじまるのでしょうか。ロバさんは、黙って見ていました。ウサギと若いカメは、海岸に並んで立ちました。そして長く続く海岸のずっと向こうに見える、小高い丘のほうを見つめています。
「では、用意……」
と長老カメが片手を上げて言いました。
「どん!」
その瞬間、ウサギとカメは走り出しました。ウサギはあっというまに遠くに行ってしまいましたが、カメはまだ手に届きそうなところを歩いて……走って……?います。まわりのカメたちが、口々に応援しています。
「がんばれっ!」
「しっかりー」
「今年こそ、ウサギに勝つんだ!」
ウサギとカメは、どうやら走る競争をしているようです。でも、すでに勝負の結果はわかりきっているように、ロバさんには思えました。
それなのに、カメたちは一生懸命です。勇者と言われた若いカメも、とても必死に走っているようです。ロバさんは、なんだか悲しくなってきました。ウサギはもうとても小さく見えるだけです。なぜ、ウサギとカメはこんな競走をしているのでしょう。それも、さっきの話では毎年やっているようです。ロバさんは、長老カメに話しかけました。
「どうして競走しているんですか?」
長老は答えました。
「ウサギ仙人との約束があるのだ。われらカメがもし競走で勝ったら、この山をわれわれのものにできるのだ」
「山をもらって、どうするんですか?」
「ここにカメノオト・フィルの専属ホールを作って、演奏会を開くのだ」
「ええっ?」
そのとき、ウサギがこちらに戻ってくるのが見えました。丘まで行って、折り返してきたのでしょう。ウサギはものすごい勢いで走ってきましたが、
「あっあぶない! どいて!」
といいながら、止まることもできず、そのままロバさんにぶつかりました。ロバさんは衝撃で数メートル飛ばされてしまいました。砂浜に倒れこみ、そのままなにがなんだかわからなくなりました。
気がつくと、ウサギもカメも見当たりません。
「あれ……?」
ロバさんは起き上がり、まわりを見回しました。海岸は静かです。ただ、波の音が聞こえるだけです。
「へんだなー。夢でも見ていたのかな?」
ロバさんは、ウサギと来た道を戻りました。岩がごろごろした山道を登っていきました。しかし、岩の上にウサギの姿はありません。
「やっぱり、昼間から夢を見ていたんだろうか。ウサギとカメの競走なんて、なんかヘンだし……」
ぽつり、と顔に当たったのは雨粒でした。静かに雨が降ってきました。ロバさんは足を早めて、雨宿りできる場所を探しました。大きな木の下に座り込み、雨が止むのを待っているうちに、だんだん眠くなってきました。
ぱらぱらという、カメの音――ではなく、雨の音を聞きながら、ロバさんはすぐに眠りにつきました。とても疲れていたようです。
すみませんでした。某所で「カメノオト」と言ったらなぜかある人に大受け?しちゃって、あれぇそんなにおもしろいのかなあ、とむりやり織り込んでつくってみたので、話の筋とかなにもありません。「こんな夢を見た」的な何かです。……なんて言うと、あと9つこんな感じの話を書かなきゃだめなのだろうか(笑)。

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