『あと1ヶ月の命』
先週の水曜日、いつものように会社で仕事をしていたら、母からお祖父さんが危篤だとの知らせがあった。
近いうちに、意識が無くなるかもしれない。
話ができるうちに、一度お見舞いに来て欲しい。
私はすぐに病院へ駆けつけた。
いつ逝ってもおかしくないと言われていたけれど、私は普段着のままで行った。
喪服や香典を用意して行ったら、お祖父さんの葬式の準備をしているようで、なんだかイヤだったのだ。
だって、まだお祖父さんは、一所懸命に生きているのだ。
お祖父さんは、病院の集中治療室にいた。
3年前に脳梗塞で倒れ、右半身が麻痺していたのだが、今回は片方の肺が機能しなくなり、もう片方の肺には水が溜まって、酸素吸入の機械がなければ呼吸ができない状態だった。
身体からは無数のコードが伸び、画面にはたくさんの数字が表示されている。
こんなお祖父さんの姿は、正直見たくはなかった。
お祖父さんと私は、非常によく似ている。
偏屈で照れ屋。
人付き合いが苦手で、好き嫌いが激しい。
いつもバカなことを言って、ふざけてばかりいる。
だから、お祖父さんの死期が迫った姿を見た私は、まるで自分の姿を見ているようで、何も言えなかった。
お祖父さんも、何も言わなかった。
だけど、なんだかお互いの気持ちは、良く分かった気がした。
顔を見合わせては、二人でヘラヘラ笑っていた。
後から母に聞いたら、他の人が見舞いに来ても知らん顔していたのに、私が来たら笑顔になったとか。
お祖父さんも私も、悲しいのが嫌いだ。
何か話をしてしまったら、悲しくなって泣いてしまいそうだった。
だって、生きているお祖父さんと会えるのは、きっとこれが最後なのだから。
お祖父さんは、帰ろうとする私に、こう言った。
「お大事に……」
やっぱり、私にとっては、最高のお祖父さんだよ。
すでに、癌が全身に転移しているようで、治る見込みはゼロである。
肺がやられているので、喋るのも辛そうだ。
それなのに、私を笑わせようとして、バカなことを言ったのだ。
お祖父さんの命は、もう長くはない。
だけど、私は何があっても、笑っていたいと思う。
一番辛い人が、必死に笑わせようとしていたのだから。

0