2009/10/10

サンタが家にやって来た12  

【 第十二話 】





「んっスイ…?」
枕元でスイが一声上げると、雲水が目を覚ましてしまった。
「ゴンおしっこか?」
「うんママ便所」
続けてムクッと起き上がったゴンも、目を擦りながらトイレに立つ。
トイレは隣の部屋に増設して造ったのだが、仕切り壁も開けっ放しなので、
多少美観は損なわれるものの、小さな子供が一人で用を足すにも心配が無い。


「また阿含起きてたのか?スイ汗かいてるな」
スイの頭を撫でた雲水が、傍らのボックスからタオルや着替えを取り出しに立つ。
「えっ?あっスーちゃん大丈夫か?」
熱でも出たんじゃないのかと慌てて阿含が、手の掌をスイの額に当てみるが、
特に熱くはない。
汗をかくのは当前であろう。
新陳代謝の激しい幼児が、暖房のきいた暖かい部屋の中で、
一晩中父親の腕の中でビッチリ抱っこされているのだから。
雲水は阿含の腕からスイを受け取ると、テキパキ汗を拭き着替えさせている。

「おれ喉渇いた」
「パパが持って来てやるぜゴン」
所在無げにウロウロするだけの阿含だったが、
トイレから戻ったゴンが何か飲むと言うと、
途端にお役目を得たりとばかりに張り切って、リビングのミニ冷蔵庫から、
幼児用イオン飲料を持って来て、蓋を開けて渡してやったりしている。

「はい雲子ちゃん、これスーちゃんの飲み物」
「あぁスイにも水分補給させないとな」
気が利くなと雲水に言われた阿含は、得意げにニマニマしているが、
今までスイを抱っこしていたクセして汗にも気付かず、病気かと怯えるだけで、
着替えさせているのは雲水なのだ。
「親父アホくさ。おやすみママ」
白い目で父親に一瞥をくれたゴンが、大きなアクビを一つすると、
すぐ布団に横になってスースー寝息をたて始めた。
ここ数日クリスマスのイベント続きで流石に疲れたのだろう。
「おやすみゴン。今日は疲れたな」
スイにパジャマのズボンを履かせながら、直ぐ眠ってしまったゴンの寝顔に、
雲水が柔らかく微笑む。


「ほらスイ、お父さんが持って来てくれたぞ。冷たくて美味しいな」
仕上げに雲水は横抱きにしてスイにも、幼児用飲料水を飲ませて水分を補給させる。
夢うつつの中で半分ほどゴクゴク飲んだスイは、雲水の腕の中で、
コテッとまた寝てしまった。
「よし、お休みスイ」
眠っているゴンの横に、スイを降ろして寝かせた。

「スイは大丈夫だから、お前ももう休め。阿含」
「でも雲子ちゃん、スーちゃん心配で…」
寝ろと言う雲水に阿含が渋る。

「んぅ…」
気配を感じたのか、ゴンがスイの方にゴロンと横向きになり、スイの腕を掴むと、
スイが少し笑った顔になって、スピスピ寝息をたて始めた。
「ほら阿含、ゴンも居るしスイも安心した顔して寝てるじゃないか」
雲水が子供たちのオデコにキスをして、そっと布団を被せる。


「じゃ雲子ちゃん、ちょこっと呑み直ししねぇ?」
「そうだな。少し呑むとするか」
子供たちが産まれてから、家でゆっくり呑む機会は滅多にないし、
夫婦二人だけでの外出をした事も無い。
お手伝いさんも何人も雇っているのだから、機会を作れない訳ではないのだが、
夫婦は二人とも子供たちと離れて家に置いてまでそうしたいとも思わないから、
今の状況に不満は無い。


「雲子ちゃんシャンパンとワインどっちが良い?」
「お前の飲みたい方で構わないぞ阿含」
いそいそと阿含がピンクのドンペリとグラスや簡単なつまみを用意しに、
キッチンに向かう。
その間に雲水は、呑みかけの缶ビールや玩具を片付けて、台布巾で拭いたりして、
ソファテーブルの上を整えていた。

明かりは、
子供たちも寝ているので、間接照明もグッと落としており、
やけにクリスマスツリーの電球が交互に点滅しているのが目立つ。
綺麗だから点けていようと言うスイの要望で、ツリーを出してからここ一ヶ月余り、
昼夜問わずほとんど電球はつけっ放し状態だった。

子供の嗜好に合わせて、可愛らしさ重視の金剛さん家のツリーの電球は、
赤や青や黄色や緑など色付きがピカピカ点滅して光り、
大人の落ち着いたムードには今一歩乏しいものがある。

「これも今日までだな。明日には片付けないと」
「スーちゃん気に入ってんだから、ずっと出しっ放しでも良いじゃねぇか」
冷蔵庫の残りのパテやチーズを皿に盛り合わせて阿含がリビングに戻って来た。
そうもいかないだろうと、子供に甘い阿含に微笑む雲水の顔も、
ツリーのライトに照らされて、ブルーやピンクにチカチカ変わっている。

子供たちのクリスマスプレゼントの玩具のカラフルな楽器類が、
ソファの横に置かれてあり、
重厚で立派な大邸宅だが、どうしても所帯染みた感は否めない。
が、
阿含は大層満足だから良いのだ。
子供たちの存在は、自分と雲水ふたりの間に出来た愛の結晶で、
自分たちの関係がより強固になったようで、安心するのだ。
雲水にしても、すぐ目線は畳コーナーに寝ている子供たちの様子を伺っては、
柔らかく注がれているのだから、そんなこと気にも留めていないのだろう。




「雲子ちゃんメリークリスマス乾杯」
「メリークリスマス阿含」
二人でジャンパングラスを傾けて乾杯する。



阿含も雲水も二人とも、幸せに満ち足りた顔で寄り添い合って、
聖夜のひとときを過ごしていた。





********





翌日、金剛さん一家は、海外へと旅立って行った。
行き先はオーストラリアのゴールドコースト。
「スーちゃんもゴンも寝ちまったな」
「イベント続きの強行軍で出発したからな」
客室乗務員が運んで来た機内サービスのワインを阿含が雲水に渡す。
行きの飛行機のファーストクラスの大きめな座席で、スイもゴンもずっと寝ている。
「向こうに着いたら何の用事もねぇから、ゆっくり休めんぜ」
「あっちに着いて海を見たら、子供たち直ぐ泳ぎたがるだろうけどな」
日本人観光客が密集するこの時期の旅行で、旅慣れたセレブな金剛さん家では、
特別観光地を回る予定も立てて無い。
ずっと同じホテルの高級コンドミニアムに宿泊して、
部屋専用のプライベートビーチで、子供たちと泳いだりする位で、
のんびりする予定だ。
お帰りは来月の十日過ぎと、混雑も避ける日程も内容も超リッチな旅だった。
0



コメントを書く


名前
メールアドレス
コメント本文(1000文字まで)
URL




teacup.ブログ “AutoPage”
AutoPage最新お知らせ