桜薫る 32.カカオに罪はない

2010/9/21  23:41 | 投稿者: おるん

---------------------------------------------
注)本文中にある名称は実在の物・人・団体とはなんら関係ありません。
 ウェブカレはリンクシンク社のSNSサービス名です。
 小説内には一部ウェブカレのイベントに近い箇所があります。
 小説内には一部ウェブカレのイベントの内容を引用した箇所があります。(ネタバレ注意)
 小説内の設定は必ずしもウェブカレ公式設定と同じではありません。
---------------------------------------------

◇◆◇32.カカオに罪はない


あれから、彼女達の攻撃は小康状態になった。
三年生はもう卒業で登校することもほとんど無い。そのうえ、結城さんが榎本さんと本格的に付き合い始めたようで、私と薫君が付き合っていると認めざるを得なくなったみたい。
他の二年生、一年生の部員達は、ヒトミに諭されて、下らない嫌がらせをするのを止めた。生徒会長に睨まれた方が怖いと思ったらしい。

三年生が居なくなった学校は少し閑散としている。冬の冷たい空気が透き通って背筋を凛とさせる。日が差している時間でも校舎の三階は時間が止まったような静けさで、冷えた空気で鼻の奥が痛くなる。
放課後、二階で教室前の廊下の掃除をしていると、そんな三階の様子が見える。

生徒会室前に一人二人、入れ替わりに女子生徒がやってくる。

今日は片思いの女の子や恋人が居る女の子には特別な日。
…多分、あのコ達は薫君が目当てなんだと思う。
私も早く掃除を終わらせて、薫君のところに行かなくちゃ…。

掃除が終わって、綾川先生のチェックが入る。特に指摘もなく解散となった。
鞄を持って教室を出て、手洗い場で手を洗っていると、背後から声を掛けられた。
「谷本さん、そわそわしていますね。」
「…先生。そりゃ、今日は…ですから。」
「ふふ。頑張ってくださいね。」
「先生こそ、早く準備室に行った方がいいんじゃないですか?きっとみんなお待ちかねだと思いますよ。」
「そうですね。では…。」
先生が去っていった。もしかして、チョコ欲しかったのかな?…なんてね。

駆け足で階段を上る。角を曲がれば生徒会室というところで、女の子の声が聞こえて、立ち止まる。
「草間会長。これ、もし良かったら食べてください!!」
そっと覗いてみると、廊下の向こう側から歩いてきた彼に、一年生と思しき女子が箱を差し出し、声を掛けている。
「…ふむ。…悪いが、そういったものは受け取らないことにしているんだ。」
「えっ…。」と女の子の声。
背中しか見えないけど、泣きそうなんじゃないかな…。
「気持ちだけ頂いておこう。では。」
彼は女の子の脇をすり抜けて生徒会室に入っていった。
「あ…。」
女の子はそこに呆然と立ち尽くしていた。
こっちに来るかも、そう思ってダッシュで二階に下りてトイレに入る。
薫君、甘い物が好きだから、絶対受け取ると思ったのに。私のも受け取ってくれないのかな??

しばらくしてからもう一度三階に上る。廊下には誰もいない。
生徒会室を覗こうとドアの前まで行ったところで、彼が出てきた。
「か、薫君。」
「ああ、桜。ちょうどいいところに来た。俺も君に用が…。」
タイミングが良すぎて驚いたけど、さっきのことを聞いてみる。
「ね、さっき女の子が来てたでしょ?」
「ん?なんだ、見ていたのか。」
「チョコ、貰わなかったの?」
「気になるか?」
「そりゃ、少しは…。」
彼を見て言うのが癪で、窓の外を見ながら言う。
「たまにそういうことがある。しかし見ず知らずの生徒から物を貰う訳にはいかないからな。」
「そうなんだ…。やっぱり、結構モテるんだね。」
「そんなことは…。それで?」
彼がちょっと気を遣ったみたいで否定する。この数ヶ月見てて思った。薫君は確かにモテてる。
「バレンタインデーでしょ?さっきの子以外からも誰かにチョコとか貰ったの?」
「なんだ、そんなことが気になるのか?」
「うん。気になる。」
一応、彼女なんだから気になる。もし私がまったく気にしなかったら寂しくなるでしょ?
「…何人か来るには来たが、生徒会などで付き合いのある人間以外からのものはすべて断った。」
「わ…、そうなんだ…。」
そういうコンセプトですか。私も生徒会役員ではないけど…。
「皆、お菓子屋の思惑に踊らされているだけだろう?」
「うーん、私はいいと思うなぁ、こういうイベントがあるのって。」
彼は面倒くさそうにそう言う。でも、こういうイベントがなかったら女の子から告白とかできないよ。
「ふむ…。まぁ、カカオに罪は無いか。」
私がバレンタインデーを肯定的に言ったからか、彼は微笑んでそう言った。
「チョコ、おいしいもんね。」
「…君は誰かにチョコをあげたのか?」
ちょっと神妙な顔つきで聞いてくる。そんなの薫君以外の人になんてあげる訳ないのに。
「ううん。渡す相手、いないから…。」
「そうなのか…。」
残念そうな顔をした彼。
「どうしたの?」
「君が、その、俺に何か作って持ってきてくれると思っていたから。」
なんだ、良かった。私の分は貰う気だったんだ。
「あはは、あるよ。薫君は特別なんだから。」
「!!」
彼の顔が赤くなる。そりゃそうか、こんなにしおらしい態度、見るのは久しぶりだもの。
「私の分も受け取ってくれないのかと思っちゃった。はい、どうぞ。」
鞄の中からチョコを入れた紙袋を取り出して渡す。
「俺だって、君は特別だから…。ありがとう。」
彼はバツ悪そうに、うつむいて受け取ってくれた。
「開けてみて。」
「あぁ。…これは…頑張ったな。」
袋を開けて中の箱も開けた。中を見た彼の目の色が変わる。うっとりとした声でそう言った。
「流石。自分でも作るからすぐに分かっちゃうんだね。」
「まぁな。」
「私、昨日は頑張っちゃった。」
「あぁ、手作りチョコは一見簡単そうに思えて、それなりに奥が深いからな…。」
「でも、薫君が自分でケーキ焼くなんて知ったら、みんな驚くよね。」
からかうように笑いながら言うと、彼が照れて怒る。
「やめてくれ。」
「ふふっ。プレゼントもあるんだよ、はい。」
もう一つ鞄の中から本屋の紙袋を出して渡す。彼がチョコの紙袋を腕に掛けて、本屋の袋の中身を取り出す。
「ん…?『最新版、おいしいケーキのお店とレシピ』」
「こういうの、なかなか自分では買いにくいでしょ。」
「ああ…これは…。また今度、君と一緒に行こう。」
彼が驚きと嬉しさを滲ませる。
「うん。…あの、チョコもちゃんと食べてね。」
「ああ。その前に、桜、ちょっと手を見せてみろ。」
本を紙袋に仕舞って、小脇に抱え、私の左手を取った。
「え?」
まじまじと手を裏表見て言う。
「…やっぱり。」
「…あ。」
「ヤケドしてるじゃないか。」
「あはは、慣れないこと、あんまりするもんじゃないね。」
「頑張ったんだな。…大切に食べさせてもらおう。」
彼が穏やかな顔で微笑みながら、私を見てそう言った。
彼の表情が優しくて、嬉しくてにやけちゃう。泣きそうでもある。
「…うん!」
きっとおいしいんだから。ちゃんと味わって食べてね。


◇◆◇


「さて、用事も済んだし、帰るとするかな。」
「あれ?そうなの?」
「あぁ、俺の用事は、コレだったから。」
「うそ?」
「うそ。…ま、一部ホントだが、ちゃんと仕事したから大丈夫。戸締りするから待ってろ。」
「うん…。それはそうと、薫君、今日は何人、女の子が来た?」
「あ?まだ気になるか?えっと、…朝からで、直接来たのは十人くらいだな。
朝見た時点で靴箱にも五つ程入っていて、返すのも捨てるのも申し訳ないから、名前の書いてあるものは家で食べようかと…。」
そう言いながら彼が鞄を手に持ち、ポケットから鍵を出して、生徒会室の施錠をする。
「薫君、モテてるよね。前の騒動然り。」
並んで廊下を歩き出す。二人とも前を向いて淡々と話す。
「そうだな…。俺は近寄りがたいと思われている、と思っていたんだが…。」
「うん、私も…。ってごめん。アキもアリサも薫君のこと堅物だって言ってたし…。優しいし、かっこいいのにモテないのかなーって思ってた。」
「煽てても何も出ないぞ?
…今までモテてると思ったことはない。告白されたこともないし…。今日はやけにたくさん女子が来たけど。」
彼を見るとちょっと神妙な面持ち。それが少し面白かった。彼より前に出て、後向きに歩く。
「なんか分かる気がする。」
「?」
「だって、薫君、みんなに優しいけど、笑いかけたりしないもん。最近はちょっと笑顔が増えたけどね。」
「そうだな。」
「自分の領域の境界に有刺鉄線張ってるもんね。」
「ほう、なかなか哲学的なことを言う。」
立ち止まって彼を待つ。そしてまた、彼の隣を歩く。
「だって、初めて会った日の次の日、アリサが驚いてたもん。会話するのが珍しいって。」
「そう、だな…。普段、他の人間とあまり話さないからな。」
「何で私には声掛けてくれたの?」
下から彼を仰ぎながら聞く。照れて私を見てくれない。
「ぐ…。かわいい転校生が来ると評判だったからな。興味があった。
最初は特別美人だとは思わなかったが、何故か君が気になって。なんでだろうな。」
彼が私の前に出て歩く。背中で聞いてくる。
「覚えているか…?初めて会った時のことを。」
「え?あぁ、図書館で。」
「そうだ。」


◇◆◇


あの日の放課後、まだ蒸し暑くて、教室の空気を吸うと気管支が辛くなるような感覚を覚えた。
新学期が始まったばかりで、生徒達はみんなまだ休み気分が抜けなくて浮かれていた。

───

彼女が噂の転校生か。噂どおり、結構かわいらしい部類に入るかもしれない。
隣の教室から出てきた彼女の後を、つい追いかけてしまった。

図書館…。
彼女は図書館に入っていった。本が好きなんだろうか?どんな本を読むのだろう?
そんな好奇心に駆られて自分も図書館に入る。

彼女のすぐ後に入ったはずなのに、見失ってしまった。
…うーん。そんなに足が速いとは思わないのだが…。
辺りを見回しながら奥に進む。

ドンッ!

「きゃっ!」
女の子の小さい悲鳴。
下を見るとあの転校生だった。
「ご、ごめんなさい。」
彼女はうろたえてながら謝ってくれた。俺がよそ見をしていたからなのだが、かなり動揺しているようで、その慌て振りが面白い。
「う…。いや、こちらこそすまない。大丈夫か?」
「は、はい。」
あまりに恐縮している姿を見て、どうしたものかと考えていた。
「君、見ない顔だな。」
転校生なのだから、これくらいの質問は自然だろう。
「え?あぁ、私、昨日転校してきたんです。」
彼女が顔を上げた。恐怖心は取れたようで、拍子抜けといったところか。表情がコロコロ変わって飽きない。
「なるほど。俺は草間薫という。この学園の生徒会長をしている。君、名前は?」
「2-Bの谷本桜といいます。」
「ふむ。覚えておこう。」
自己紹介完了。クラスを言わなかったが、隣のクラスなんだから、そのうち気付くだろう。
そこで、彼女の持っている本が目に入った。
「ところで、その本に興味があるのか?」
「え?はい。それが??」
首を傾げて、俺の目を見る。
少し警戒している様子でもあり、他人に対する好奇心を持っているようでもあり、犬というか猫というか、小動物の類を彷彿とさせる。
「いや、その本を選ぶとは少々変わっているな。でも、なかなか面白いぞ。きっと為になると思う。」
「ふーん。。。」
「俺も本が好きなのでな。図書館で探したい本があれば聞いてくれたまえ。では、またな。」
彼女はキョトンとして、その場に立ち尽くしていた。その表情もかわいらしくて俺の心を揺さぶる。
…カレーのレシピ本にコレはちょっと不自然だったかもな…。
でも、まぁ、あの本に載っているキーマカレーは中々旨かったし、いいか。
また、どこかで話す機会があればよいのだが。

───

ふふ。と声を出して笑う。
君が不思議そうに俺を見る。
…そう。初めて会ったときから、いや、会う前から、俺は君の気を引きたくて仕方なかったんだと。

---------------------------------------------
1.出会い
<31.なじる会長 33.鬼の霍乱?>
---------------------------------------------
0



2010/9/21  23:51

投稿者:おるん

本家イベント踏襲。
でももう二人付き合っているので、不自然なところは変えてます。^^;

コメントを書く

名前
メールアドレス
コメント本文(1000文字まで)
URL





AutoPage最新お知らせ