2012/12/10

A兄さん物語の断片・2  お人形系妄想創作

突発帰省のことも書きたかったんですがとりあえずこっち。
兄さん一人称の方が書きやすいかも?



その日俺はついに、あいつだったそれを、手離した。
その瞬間に、思ったほどの喪失感はなかった。
むしろ、もう、ずっと前から決めていたことを、その通りに実行できて、不思議な達成感があった。
いま厄介になっている家のオーナーが彼女を信頼していたので、俺も安心して託そうと思えた。

その後はなんだか怪しい目つきで妖しい手つきの銀髪の男性二人に両サイドから挟み込まれて、色々と感慨にふける暇もなかった。
おい、近い。近い近い。その手は何だ!ちょ、助けてくれ!
必死に目で助けを求めたが、仮にも俺のオーナーということになっているはずの人はやけに楽しそうにけらけら笑いながら写真を撮ったり焼き鳥を串からはずしたりしていていっこうに助けてくれなかったので、俺はもう何も考えないことにした。無だ。無に。

同じ年頃の友達が多くて、珍しく起きてはしゃいでいる末娘の睡花がくすくす笑って言った。
「おにーちゃんがおっきいおにいさんたちとあそんでるのみるの、おねーちゃんたのしいってー」
遊んでいるのと遊ばれているのでは全然違うと思うのだが、俺には反論をする気力は残っていなかった。
ただ、確かに、オーナーや睡花が楽しそうだったから、まあ良いかと思ったのも事実で。
そんな自分を少し…意外に…そして、後ろめたくも、思った…



その後は場所を移して、盛り上がる人間たちを横目に、俺は部屋の片隅でようやく静かに過ごせる…と思ったら、あれよあれよという間に子供たちに懐かれて、結局ずっと子守をする羽目になった。
まあ、子供は嫌いじゃない。肌の色も出身地も違って、人間じゃなさそうな瞳の子達まで加わってきゃっきゃとはしゃいでいるのを見ると心が和んだ。

再び場所を移すと、次は暗く落ち着ける部屋だった。
子供たちもみんなそれぞれの鞄に戻ったので、睡花だけを膝に抱いて人間達の歌を聴いていた。
もうだいぶ夜も更けて、宴も長時間にわたっているのに、オーナーは元気に楽しげに歌を歌っている。
そういえば、津軽の姉妹たちは歌が好きだ。特に、ファーストドールの紗雪。オーナーの影響なのだろうか。
よく、一緒に歌おうとせがまれるが、俺は歌を知らない。



ようやく宴がおひらきになった頃には、舗道がうっすら白く雪で覆われて、街灯に照らされてぼんやり光っていた。
「…寒くないんですか、オーナーさん」
「敬語男子も萌えポイントではあるけど、君そういうキャラじゃないでしょうに。とりあえずそのオーナーさんってのやめてよ。オーナーかはにわさんかせめてどっちかにしなさい」
「……」
なんとなく俺はこの人を、どう呼んだらいいか未だ決めかねている。津軽の姉妹や睡花のオーナーであるという認識が先にたってしまう。今の俺のオーナーはこの人で、彼女のお陰で俺のやるべきことももうほぼ終わったのだが。あとは、見届けるだけだ…
「意地っ張りだねえ。まあいいけど。んで、さっきの質問の答えだけど。寒くないよ、今はね。とっても楽しかったあとだから、まだ心がほわほわ暖かいの」
送ってもらったコンビニからマンションまでの短い道のりを、積もり始めたばかりの雪に足跡をつけながら、かろやかに彼女は行く。
「あたしは…そうだ、こんなふうに…いつも、こんなだった。夢のようだった。先輩たちと朝まではしゃいで、しずかな雪の朝をひとりじめにしながら帰るんだ…明けていく青い空が綺麗でね。どこにでもある、青春だと思う。でもあたしにそんな時間が訪れるなんて思ってなかった。奇跡だと思った…」
早朝のほの青い空を見上げて、独り言のように彼女は言う。
「それがあたしの、津軽の冬。いつか君にも話してあげるよ」



津軽の姉妹達の待つ部屋に帰ると、なんだか急に体の力が抜けて、瞼が重くなった。
とても眠い…ただ、腕だけが落ち着かない。いつもこの腕に抱えていた重み…
「わー、綺麗なペンダント!それどうしたの」
「いいな…次貸して…」
少女達の声を聴きながら…俺は、あらがえない眠りに吸い込まれる。
「おにーちゃんといっしょにねるの…」
小さな声がして、寄りかかってきた重みを半ば無意識で抱き寄せた。
落とさないように、壊れないように…いつものように腕に抱える。
そして俺はようやく眠りに落ちていった…



目を覚まして身じろぎをすると、俺の横で何かが崩れる音がした。
…チョコレートにマカロン、イチゴのパフェ。色とりどりのお菓子が山と積まれていた。
「…なんだ、これは…?」
まだぼんやりした意識では把握しきれぬその光景を眺めていると、ここの姉妹の長女・和桜が隣にそっと座った。
「貴方が眠ったままなかなか目を覚まさないので、心配してあの二人が」
紗雪と林檎が少し離れた棚の上で、寄り添って眠っている。
「俺は、どのくらい寝てたんだ…?」
「丸一日と半分ってところですわ。…気を張っていたのですね」
情けない。平気なつもりでいたが、彼女たちにまで心配をかけて。
「…すまない」
「うふふ、体が大きくて助かりましたね、私達の服が着られる大きさなら眠っている間にドレス姿にされているところでしたよ?」
「それは…勘弁して欲しい…」
まだけだるい体でゆっくり起き上がると、隣で丸くなっていた睡花がむにゃむにゃと何か呟いた。
「スイもずっと貴方のそばを離れなかったんですよ。すっかり懐かれましたね」
「ああそうか…お前だったのか…」
「何か飲みますか?そうだ、貴方に丁度いい大きさのティーカップがあるんですよ。私たちには少し大きくて死蔵していましたが、使い道ができました。これは貴方専用にしましょうか」
「いや、俺は…」
秋と冬の少女が積み上げたお菓子の山を、隣で安心しきって眠る小さな頬を、俺は眺める。
「…以前にも言ったが、見届けるまでは旅の途中のつもりだ。ただ、まあ…そうだな、何か…洋菓子に合うような飲み物を、もらえるとありがたいかな」
「ふふ…すぐに用意しますわ」



「俺はずっとあいつを守っているつもりだった。あいつを守る兄であることだけに存在意義を見出し、俺があいつに寄りかかり続けていることに、ずっとあいつが俺を支えていただけだってことに気付かぬまま」
「わたくしも、初めはこれでいいのか、と思っていました。いまでも時々思うことはあります。姉になるためだけに…オーナーが可愛がっている子達の保護者になるためだけに迎えられたのではないかと…ですが、オーナーは…津軽に導かれ、愛され守られるだけでなく、愛し、守りたいと願うようになったオーナーの心は…そうなりたいと願う未来をわたくしに見出してくださった」
「和桜、君は俺とは違…」
「同じですよ。」
和桜は微笑んだ。
「わたくしたちは所有者の想いひとつで年長者になりますが、年長でもそうでなくても、誰かを愛し守ることはすぐにできることではありませんし、いつもうまくゆくわけでもありません。わたくしも、まだまだです。でもいいじゃありませんか。守りたい誰かの存在に、わたくしたちも支えられて。…過保護気味なお兄さんに愛されて、守られながらその拠り所となるのも、きっとそれはそれでしあわせだったのではないかしら」
「でもあいつは俺を拒んだ」
「しあわせになってほしいと、願ったからですよ」
「幸せに…」
「すみません、貴方の弟さんではないのに、勝手に」
「いや。…君はあいつに少し似ているな。目元のあたりが…時折ふと、そんな大人びた、俺の心を全て見透かしたような眼差しをしていた」
「まあ、わたくしにはそんなこと出来ませんよ?…今のところは。まだ知り合って間もないですし。まあ、長くここで暮らしてわたくし達の兄になってくれるなら、いずれ見透かせるかもしれませんけれどね。ちょっと頑張ってみましょうか?」
「…いい、頑張らなくていい。何か怖い」
「うふふ」



夜更け。普段ならオーナーといる時間だが、今彼女はスイを連れて急な旅に出ている。
先ほど「彼女」の転生に必要なボディが手に入ったとの連絡があった。
こんなに早く見つかるとは思っていなかったと言うと、
「願って行動していればタイミングに導かれるものなのよ、たとえ自分のことでなくても一旦関わったら何か力になりたいと思うでしょ」
と返事が来た。

その、彼女の言うタイミングに導かれてなのか、何とか無事に帰れそうだと連絡があり、安心して姉妹で談笑していた紗雪が、急に真剣な顔で呟いた。
「スイとはにわお姉ちゃんからテレパシーが届いたの…感じる?」
林檎と和桜も真剣な表情で頷く。
「あたし歌うわ…海峡に邪魔される前にお姉ちゃんとお友達に届けたいの。…コーラスして。いくよ。…ワン、トゥー」
紗雪のカウントに応えて林檎と和桜が声を合わせる。
♪if you miss your dream…
♪ゆーめがーかーなーうとき それはきょーうかーもーしーれない しんじーていてーいいんーだかーらーねー…

そのテレパシーとやらを同時に感じ取れたわけではなかったが、3人の歌を聴いていると不思議な感覚に襲われた。
――あたしは幸せを祈らずにいられない。ほんの短い間でも、一旦出会って関われば、何か力になりたいと思うでしょ。願って行動すれば、ちゃんと幸せに導かれるの。あたしが津軽に導かれたように。それを伝えたいの。すべては必ずうまくゆくんだって。

俺が歌うような歌じゃないんだろうとは思ったが、俺は初めて、一緒に歌いたいと、少しだけ思った…

――幸せを、祈らずにいられない、か。

もうじき生まれる、俺の知らない家に迎えられた、俺の知らない女の子。
その幸せを、俺も祈らずにはいられない。
俺も「彼女」も導かれて今があるのだとしたら。
別々になった道だって、新しい形で交わるかもしれないと、期待してもいいんだろうか?

そして…
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