「アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草/160427」
懐かしい昔の話
【雨のち曇】
忘却とは忘れ去る事なり。忘れ得ずして忘却を誓う心の哀しさよ…
女性アナウンサーの哀調をおびた誦読が、ハモンドオルガンの調べをバックに流れると、なぜか家中の者がラジオの前に集まって来る。
“君の名はと尋ねる人あり、その人の名も知らず、今日砂山に唯一来て、浜昼顔に聞いてみる”
連続放送劇「君の名は」のプロローグであった。
劇中歌の中に「黒百合の花」というのもあったと思うのだが、たしかこんな歌詞だった。
“黒百合は恋の花、愛する人に捧げれば、二人はいつかは結ばれる、アーアー、アハハアハハハー、アーアー、アハハハハハハ、この花ニシパにあげようか、私はニシパが大好きさ”
ドラマの舞台が北海道に移り、主人公に恋するアイヌ娘が、その心情を切々と唄うという設定なのだが、私には何だか、アイヌの人達を故意に未開人のように扱っているような気がして、あまり良い気分ではなかった。
なぜかというと、ちょうどその頃に学校の授業で、「日本」は、大和人、アイヌ人、ギリヤーク人、オロッコ人、ツングース人、オロチョン人の六民族で構成された国家であると教えられたので、アイヌの人達を、まるで土人のように書いているのが、どうしても馴染めなかったのかもしれない。
大和民族とアイヌ民族を除くと、それ以外の民族の数はごく少数であり、やがては消えて行く運命にあったのだろうが、その中で、ギリヤーク人のシャーマンが、イヌイット独特の大きなうちわ太鼓を片手に、夜の闇の中を、かがり火に照らされて舞う姿をニュース映画で見た時には、背筋がそうけ立つほどの感動を味わった事を、鮮明に覚えている。
邪馬台国の卑弥呼も、きっとこんな風に神託を得るために、トランス状態で舞ったのだろう。
その人は、「世界分化画報」という雑誌にも取り上げられていたと思うのだが、外観は私達と少しも変わらなかったので、とても強い親しみを抱いたのを覚えている。
多分、私の中に流れているウラルアルタイ語族としての血脈が、遠祖の息吹を呼び覚ますのだろうか。
“ドン・ドン・ドン・ドン”という単調なリズムを背景として“ハイヤーハイハイハイ、ハイヤーハイ、ハイヤーハイハイハイ、ハイヤーハイ”と唱える声に、全細胞が呼応するのだった。
気が向くと、見よう見真似のステップを踏みながら、“ハイヤーハイハイハイ・ハイヤーハイヤーハイハイ・ハイヤー・ハイハイハイ”と踊りまくる私を、父母や兄弟が気味悪そうに眺めながら、「この子は少し神がかってるのかねえ」ともらして、ため息をついていたものだったが、八雲神社の神主さんは、そんな私が面白いといつも褒めてくれたので、母もどうやら安心したようであった。
それでも、太鼓代りのふるいを打ち鳴らしながら、妙な声を出して庭中を踊り回る私の姿は、近所の人の目には、どうしても正気とは見えなかったようで、親は自分の子供に「晃ちゃんと遊んではいけないよ」と命じていたと聞いた。
すぐ上の姉は、そんな時の私には、絶対に近付く事はなかった。
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※「アトリエ雑記〈少年記T〉」は「アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草」の中から主に少年時代の頃の話を抜粋したものです。
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アトリエ白美「渡辺肖像画工房」 代表:渡辺晃吉
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